本の紹介(No.5)

「泥棒たちの昼休み」(結城昌治著)

  刑務所というところは”小さな工場”の集積場所のようなものらしい。
印刷、建築、ソフト開発、洗濯…。これらの工場は服務者が刑期満了
あるいは仮釈放により世間に出たときのために職を身につける場と
なっている。

  本書は、ある刑務所の木工場で働く男達の物語。彼らの刑務所入り
までのさまざまな物語。全8話から構成されている。もともと月刊誌
「小説新潮」に連載されていたものが1冊の本にまとめられたものである。

  登場人物は、種々さまざま。タクシー運転手、画廊の役員、
県会議員の秘書、モデル・プロダクションのマネージャー等々。

  彼らの、何ともオカシイ”罪と罰”の顛末(てんまつ)、人生の機微。
そして、ドジあり、未練あり。堀の中の懺悔(ざんげ)物語でもある。

  本書の著者結城昌治(1927〜1976)は、ハードボイルド、
時代小説、ショーとショートと多彩な分野で活躍していた作家だった。
ところが、その一方では1970年に『軍旗はためく下に』で直木賞を
受賞している。

  本書には「8話」までが収められているが、著者は「9話」執筆中で
急逝した。結城昌治の最後の小説集というわけである。

  若い頃東京地検に在職していたという著者である。そのためで
あろうか、「堀の中」の諸事情は不自然なところがなく、しっかりと
記述されている。

  この本の性格から、あらすじを述べたりすることはやめておこう。(O.R)
(1999年・講談社文庫・600円+消費税)

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