本の紹介(No.9)

「子供より古書が大事と思いたい」(鹿島 茂著)

  ちょっと”危険”なタイトルの本である。この本を自宅の本棚に立てて
おくと、少し危ない。「アラ!あなたって、こんな本読んでいるの。そうだった
のね。私や子供より、本が大事なのね。ソウッ」などと言って1人でデパートか
どこかへ行ってしまうかもしれない。
  本書の著者鹿島茂
(かしま・しげる)は1949年横浜生まれ。現在は
共立女子大学教授の職にある。専門は19世紀のフランス小説。本書で
1996年に第12回講談社エッセイ賞を受賞した。
  著者は、ある時『パリの悪魔』という本に魅せられる。この本は、2冊組で
革装丁。バルザック、サンドなどを初めとするロマン主義文学者たちが、
パリの様々な断面をルポルタージュ風に書いた風俗観察の本。1845年の
出版だ。この本をより魅力的にしているのが木口木版の挿絵。この本と
神田で出会った時の著者の手取りの給与が18万円。一方、本の値段は
15万円だった。買いたかった『パリの悪魔』は、買わなかった。
  ところで、この『パリの悪魔』との出会いが、著者を無類の愛書家にして
しまう。その後のパリ研修では、本場での古書巡りにふける。
  19世紀フランスの古書に取りつかれてから15年。その間の体験が結実
して『子供より古書が大事と思いたい』というユニークなタイトルの本として
生まれた。(1996年青土社)フランス19世紀のロマンチック本を中心とした
古書・装丁・挿絵などの解説や、古書や古書店のランクづけ。古書店経営者
とのやりとり、購入のための借金のやり方など、著者の語り口で楽しませて
くれる。巻末の解説は、(日本の)古書店経営者出久根達郎。いわく「古書の
世界に西洋も東洋もない」と。、まさに至言だ。
(O.R)

(1999年・文春文庫・581円+消費税)

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