本の紹介(No.10)

「競売妨害ー実録ある占有者の人生」(夏原 武著)

  バブルに踊り、マンション転がしに狂奔した不動産ブローカーの
太田晴夫。1950年長野市の生まれ。高校卒業後上京、カメラマンを
目指したが、夢破れ不動産の仕事を転々…。
  絶頂期には100万円の札束を持ち歩き、借家ではあるが、世田谷区
玉川台の61坪の邸宅で妻と娘、そしてアフガンハウンドという大型犬と
幸せそうに暮らした時期もあった。今は川崎市内のワンルームマンションで
1人でひっそりと暮らしている。
  占有屋−人は太田をそう呼ぶ。本来、居住する権利がないにもかかわらず、
立ち退き料を求めて競売物件に居座るのが仕事。どうして、このような
”商売”が成り立つのか。本書は、そのカラクリを丁寧に説明する。
  バブル崩壊直後の1991年8月、太田晴夫はダイヤモンド信用保証から
内容証明郵便を受け取る。勤務先の倒産と不動産価格の下落により、
太田晴夫が返済できなくなったローンを、保証会社が代行弁済したからだ。
金額は5千万円に近い。
  巨額な借金や家庭のゴタゴタから妻は家出、太田は借金の”時効”までの
時間を稼ぎながら「占有屋」稼業を続ける。家出した妻とは3度目の結婚。
最初の妻との間にできた娘は、高校へ行かなくなり家出、ファーストキッチンで
アルバイトをする。その娘は慶大生と同棲。太田はファーストキッチンの
本部にどなりこむ。「おまえのところは、未成年者を誘惑するような従業員教育を
しているのか。うちの娘はまだ17歳だぞ。そういう娘を家に戻らせずに、親から
隠しているような人間を雇っているとはどういうことだ。」と。これは小金を
せしめるために出た行動。この一件で、娘は父を見限り、とうとう姿を消してしまう。
  エセ右翼に変身、「大日本菊皇社総本部・理事長」の名刺を特注し、建設会社や
化粧品会社にクレームをつけ小遣いを稼ぐ。太田晴夫は、そんなこともやる。(O.R)

(2000年・宝島社新書・690円+消費税)

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