本の紹介(No.12)

「コラムの冒険」(小林信彦著)

  本書はもともと1992年10月から95年11月まで、「小林信彦のコラム」
というタイトルで中日新聞に連載されたもの。巻末には「主要作品
インデックス」があり、コラムでとりあげられた映画、テレビ、舞台、
ラジオ分野の作品が五十音順にリストアップされている。インデックス付
エッセイ(評論)というのは、ちょっとめずらしい。映画では「哀愁」
「青い山脈」、テレビでは「11PM」「植木等ショー」、舞台では「ウエスト
サイド物語」「王様と私」、ラジオでは「オールナイトニッポン」等がとりあげ
られている。
  作曲家服部良一が亡くなったのが1993年1月30日。これにちなんで
書かれたのが「服部良一追悼」(43n)。
服部良一の作品第1号が出たのが1924年(大正13年)。「別れのブルース」
「一杯のコーヒーから」「湖畔の宿」などが昭和10年代の作品。1946年
(昭和21年)に、仲間だった笠置シヅ子のために「神戸ブギ」を出す。
これがブギの第1号で、翌年に「東京ブギウギ」が出て、大ヒットする。
同じ笠置シヅ子の「買い物ブギ」も服部良一の作品だ。「東京の屋根の下」や
「夜のプラットホーム」など、曲名を知ってはいても、服部良一の作品である
ことを知らなかったものが多い。
  東京・両国生まれの生粋の東京人でありながら、小林信彦は関西喜劇人に
真正面から取り組み、正当な評価を下す。これは小林信彦の意外な面
かもしれない。上沼恵美子(元海原千里)を語った文(204n)はその一例である。
  今は地名も残っていない東京・江東区の洲崎(すさき)。辛うじてタクシー会社の
名称として名をとどめている。1956年、川島雄三監督の作品「洲崎パラダイス」を
俎上に乗せた「掘り出し物ー川島雄三の「洲崎パラダイス・赤信号」は興味深い。
著者はビデオを見て、その「出来がすばらしい」と賞賛する。
  暑い日に新珠三千代が水を飲もうとして、「お酒の方がいいわ」と冷や酒を
コップであおる…。こんなところを読むと「洲崎パラダイス」を見たくなってしまう。(O.R)

(2000年・新潮文庫・467円+消費税)

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