本の紹介(No.14)

「お宝ハンター鑑定日記」(羽深 律著)

  「もしあなたが、人生の途上で立ちどまり、再就職はしたくないし、
商売をする資金もない、となったらどうするか?」
  と、問いかけているのは本書の著者羽深律(はぶか・りつ)。
  東京の下町、人形町で1948年に生まれ、横浜国立大学を卒業し
東京海上に入社した。その後、JICC(現宝島社すなわち本書の出版元)に
勤めた後フリーライターになった。現在は江東区西大島で古物商兼出版社
大気社を営んでいる。
  以上のような著者の経歴をふまえた古物商の体験記。これが本書の
内容である。ドヤ街山谷の朝市に出かけて古レコードの珍盤を探したり
(第1章 ドヤ街の朝市は、まるで異人たちの饗宴のようだ)、アパート
住まいの女性の引越しの際の不用品の引取りをやったり(第15章 待って
いたのは不機嫌なスチュワーデスと鸚鵡だった)……こんな日常生活を
独特の文体で淡々と綴っている。
  2000円で買ったダンボールいっぱいのドーナツ盤レコードが2万円に
売れたり、銭湯の解体現場に飛びこんで映画の古いポスターをみつけたり、
話しはスリリングである。
  ドーナツ盤レコードを語っているページには写真が挿入されている。
目をこらしてみると田代みどり、園まり、ザ・ピーナッツの名を読みとれる。
  もし、こんなドーナツ盤レコードがあったら捨てないで、古レコード店に
持っていくとよい。本書は、そういうことを教えてくれる。また、古い映画の
ポスター約200枚が30万円近くで売れたというのも驚きだ。「海底軍艦」
「ゴジラ」「座頭市」といった映画のポスターだ。ポスターほどではないが、
映画のチラシもマネーに代えることが可能だ。
  もちろん、古物商といってもウマイ話ばかりがあるわけではない。
ニセ物にだまされる体験も扱われている。本書を読んで「古物商をやろう」と
思う読者は少ないだろう。
(O.R)

(2000年・宝島社新書・700円+消費税)

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