本の紹介(No.16)

「はみ出し銀行マンの銀行消滅」(横田濱夫著)

  『はみ出し銀行マンの…』という本は、少々食傷気味。そんな読者も
多いかも知れない。しかし、第何作目か知らないが、本書はなかなか
よく出来ている。
  今日もノルマ、明日もノルマ…。そんな毎日を送っている第一線の
銀行マン。本書の主人公「オレ」(著者と等身大の30歳すぎの独身者)。
港のみえる丘銀行に勤務する「オレ」、今は東京多摩地区の分倍河原
支店に勤務する。
  その「オレ」が勤める分倍河原支店がたった3000万円で「銀行店舗」を
X銀行に身売りすることになった。業績は絶好調だった総合優秀表彰
支店が突然の廃店においこまれる。だは、そこに隠された真相は、
「醜い行内派閥抗争の激化と極悪非道の大手X銀行の乗っ取りの陰謀」
であった。これが本書のストーリー。
  この間のドタバタを面白おかしく小説に仕立てた本書。圧巻は、
合併する側のX銀行の男子行員と港のみえる丘銀行の「勉強会」風景。
港のみえる丘銀行側の参加者は「オレ」を含めて12名。ほとんどが
女子行員だ。場所は旧甲州街道沿いにある老舗の居酒屋。「勉強会」と
称する会ではあるが、勉強なぞそっちのけで、ビールが出て、料理が出る。
X銀行の男子行員の間に港のみえる丘銀行の女子行員が1人ずつ座る。
まるでキャバクラまがいに「オレ」の上司は「もっと密着密着」と女子行員に
命令する。そのうちに女子行員のカバンを取り上げ、勝手に「中身当て
クイズ」がはじまる。

  「止めてっ、止めてくださいっ!」
  手を伸ばし、必死で奪いかえそうとする女の子を尻目に、X銀行の
野郎どもは数人がかりで、グルグルとカバンを手渡しする。そして中身を
ひっかき回しては、
  「さーて、じゃあ次のものはなんでしょうーう?」
  初めのうちは、ハンカチや口紅、ブラシといった比較的無難な物
だったからまだよかった。
  だがそのうち、手帳が出てきたり、デオドラントの携帯用スプレーが
出てきたり…
  (中略)
  カバンを取り上げられた女の子の名は、聡子ちゃんといった。係は
普通預金で年はたしか23か24だったと思う。
  聡子ちゃんには、食品会社に勤める彼氏もいて、この前の夏休みには、
2人でバリ島に行ってきたという、今時ごくフツーな女の子だった。
  手帳の中身を読み上げろーっ!」

  こんな具合にX銀行員のセクハラはエスカレートしていく。とても
一流銀行の行員の行動とは思えない。でも、これはノンフィクションに
ちがいない。(O.R)

(2000年・角川文庫・571円+税)

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