本の紹介(No.19)
「アフタヌーン・ティの楽しみーー英国紅茶の文化誌ーー」
(出口保夫著)
著者は1929年生まれ。早稲田大学名誉教授。英文学者で『キーツとその時代』上下
(中央公論新社)、『ロンドンの夏目漱石』(河出書房新社)等の英文学関係の著作がある。
一方、英文学の延長または周辺の「紅茶」に関する著書も多く、『英国紅茶への招待』
(PHP文庫)、『ロンドンの朝は紅茶で明ける』(同)等がある。本書も、著者の「紅茶もの」
の一冊、紅茶について薀蓄を傾けた本である。
19世紀の中頃迄、イギリスでは貧富の差が激しかった。貧しい人々にとって、
紅茶は唯一の温い飲み物であった。ところが、当時貧しい人々が飲んでいたのは
「出がらし」のお茶だった(122ページ)。「出がらし」を買い集め、それにラックソーンの
葉を混入し、更に色付けして販売する。そんなビジネスがあった。ロンドンには、
そんな製造工程を持つ「インチキ工場」が、八ヶ所もあったという。
最近、イギリスでは「ティ・レディ」という会社が増加している(125ページ)。「ティ・レディ」
というのは、会社等で「お茶の給仕を専門にする女性」のこと。イギリスの大衆紙
『デイリー・メイル』によると、1999年に、「ティ・レディ」を派遣するグラナダ・フードサービス社
では、150社以上の会社等とティー・サービス契約を結んでいる。伝統的に「ティータイム」を
大切にする英国人たちは、「ティ・レディ」を置いてまで、1日4回(!)のお茶を楽しんでいる。
大きな会社になると10人〜20人のティ・レディがいるらしい。これは、ひとつの「職種」であり、
性差別にはならないようだ。
ティー・レディは「ティー・トロリー」という台車を使ってサービスする。台車の上には
カップ、ミルク、シュガー、大きなポットが乗っている。台車を押しながら一人づつミルクの
加減などを聞きながら淹れていく。
ティ・バッグを発明したのはイギリス人。しかし、その実用化を推進したのはアメリカ人
だった。1920年代には布やガーゼ製のティー・バッグだったそうだ(128ページ)。
以上のように、博覧強記の著者の紅茶論議は、とどまるところを知らない。数多くの
写真や図版を挿入して、読者を楽しませてくれる。(O.R)
(2000年・丸善ライブラリー・720円+税)