本の紹介(No.22)
「イタリア幸福の12ヶ月 ーー陽気な国の暮らしのヒントーー」
(タカコ・H・メロジ−著)
お祭り好きで、食いしん坊、太陽も人々もとびきり明るい元気の国
イタリア。今、イタリアが静かなブームとなっている。2001年は日本に
おけるイタリア年だ。テレビという公共の電波にかかわらず、若い
女性タレントにイチャイチャする2人の中年イタリア男性が登場する
「NHK教育テレビ・イタリア語講座」も人気を呼んでいる。本書は
フランス人と結婚してイタリアに住む著者が書き綴ったイタリア文化と
陽気なイタリア人たち。以下は、最も印象に残ったエピソードの抄録。
犬の散歩の道すがら、著者とよく顔を合わせる老女がいる。時々、
その老女のお墓参りの途中にも行き合わせる。年齢は76歳。太り過ぎ
なので、膝に負担がかかって歩くのが少々困難な他は、まだまだ元気。
いつも冗談を言っては著者を笑わせる。
このおばあさんには家族がいない。約20年前、夫を踏切事故で亡くし、
翌年、同じような事故で一人息子を亡くした。救急車のサイレンを聞くと、
今でも胸がドキドキするという。でも、・・・なーに、アタシは大丈夫!
「Erba cattiva non muore mai!」
と言っては、カラカラと笑う。「エルバ・カッティヴァ・ノン・ムオーレ・マイ」
というのは「雑草は決して滅びない」の意。つまり「憎まれっ子、世に
はばかる」ということである。
ある日著者は「奥さん、今度いっしょに隣町のメルカート(市場)に
行きましょうよ」と老女を誘ってみた。ちなみにイタリアでは、どんな
老人に対しても、家族以外は「おじいさん、おばあさん」とは呼んだり
しないそうだ。老女はカラカラと笑いながら、
「ありがとう。気持ちはうれしいけど、ボーイフレンドが連れてって
くれることになってるんでね。焼き餅焼きでね、他の人と出かけると
嫌がるのさ。困っちゃうよ、この美貌だから」と陽気に答えた。
ところで、イタリア語で「柿」はkakiという単語があてられている。
もちろん、日本語からの借用だ。どうでもよいことかもしれないが、
本書から教えられた。(O・R)
(2000年・集英社文庫・400円+税)