本の紹介(No.23)

「大学崩壊
」 (川成 洋著)

 

大学について「教授も、学生も、制度も、全部ダメ!」と強烈なメッセージを
叩きつけている本書の著者川成洋(かわなり・よう)。自身も法政大学教授だ。
 本書は大学人による「内部告発」の書。多数の例をあげて、大学教授の
ダメさかげんを実証している。
 その1、始業時間に15分遅れて、姿を見せる教授。定員200人の教室だが、
学生は20人にも満たない。…教授は出席をとらないだけでなく、学生の顔を
ゆっくりと見回すこともなく教科書を広げ、ただ読み上げる。自分の著書の
うえ、四半世紀も使い続けているとかで、朗読はなめらか。注釈を加えて
いるが、よく聞き取れない。まるで自分ひとりの世界にいるようだ。学生は、
ノートを取るでも質問するでもなく、ぼんやりと過ごしている。
 以上は早稲田大学政経学部の講義風景。
 その2、教授は数学の講義に、25分の遅刻。この遅刻は恒例のことらしい。
それからおよそ20分もかけて出欠をとる。20分も使って名簿を読み上げる
には、それ相応の年季がいるようだ。
 それが終わると、教授は本日の設問を板書し、間をおかずに解答を書き
つらねていく。学生たちは、居眠りや雑談やらをしている約2割をのぞき、
そのままをノートに書き写す。10分前に講義は終わり、本来の授業時間
90分のうち、55分が空疎に費やされた。
 これは、信州大学の例。
 その3、1987年7月21日に起こった広島大学総合科学部学部長刺殺事件。
 この事件は、オカルト殺人事件とか広島大学内部で対立していた「中核派
VS原理研」のトラブルのとばっちりで起こった殺人事件などと、色々ととり沙汰
された。しかし、殺された学部長と同じ学部の44歳の助手が犯行を自供し、
この事件は急転直下落着した。加害者の助手は、被害者の直属の部下。
しかも、かつての教え子・弟子であった。
 「16年余りも助手生活を強いられた」という容疑者の自供を載せていたが、
著者は「助手を買い殺しにするような理不尽な助手制度というシステムに
メスを入れるものはなかった」として、大学における助手問題の深刻さを
えぐり出す。
 そのほか、助教授が教え子の大学院生を殺し、あげくのはてに妻と子ども
2人とともに心中した立教大学事件、青山学院大学青木教授レイプ疑惑
事件など、過去に報道された事件を題材に大学という閉鎖社会のドロドロ
した部分を描き出す。
 「セクハラ」も、本書のテーマ。セクハラ事件が起こっても、それを隠蔽
しようとする大学側の体質も明らかにしている。(O・R)


(2000年・宝島新書・700円+税)


前のページに戻る