本の紹介(No.31)

「女子刑務所ーー女性看守が見た
    『泣き笑い』全生活ーー」(藤木美奈子著)



  著者は1959年大阪の生まれ。高校卒業後、中学時代から通っていた
空手道場の先輩に誘われて北アフリカのアルジェリアに行く。現地で空手の
指導をするためである。21歳で帰国、刑務官の国家試験を受けて和歌山
女子刑務所の刑務官となった。本書は著者の約20年前の2年足らずの
体験の記録。
  保険金殺人未遂事件を起こした「観音様の刺青」のある30歳代の女囚。
3度目の“入所”という累犯者である。深夜、自分が経営している店(スナック?)で、
暴力団の組員であった夫に薬物入りの酒を飲ませ、酩酊状態にした。その後、
愛人とともに夫を車に乗せ港へ搬送、車ごと海に落下したように見せかけ、
事故を装うという手口だった。
  車上狙いを専門としていた窃盗の常習反だった尾崎さん(仮名)。他人の
車にねらいをつけては、金品を奪うことを全国各地で繰り返していた。窃盗で
生計を立てるという稼だった。そうなると、「時給600円や700円の普通のパート
タイマーなんかアホらしくてもどれますか」と豪語する。刑務所を出たら、窃盗を
「またやります」といい切る不謹慎ぶり。この尾崎さん、若い刑務官だった
著者の母親に相当する年齢。お互いの立場を超えて、著者に対して人間関係に
ついてのアドバイスをするシーンもある。
  研修講師が語る死刑執行の際の裏話も収録されていて興味をひく。例えば、
歴代の法務大臣は自分の人気中になかなか死刑執行の書類に判を押さない。
死刑執行の電気椅子のボタンは複数個あり、数人で同時に押す。誰のボタンが
直結しているか分からないようになっている。死刑執行作業には「特別手当」が
支給される。この金は誰もがその夜、飲み屋で散々する。
 刑務官を2年で辞めた後、著者は大阪市大経済学部で学び(中退)、様々な
職業を経た後、1994年からは女性の自立支援のためのNPO「WANA関西」の
代表をつとめている。(O.R)

(2001年・講談社文庫・494円+税)


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