本の紹介(No.35)

「古本でお散歩」(岡崎武志著)


 著者は1957年大阪の生まれ。職業はフリーライター。書評を中心に
各種新聞・雑誌に寄稿している。これまでに『文庫本雑学ノート』
(ダイヤモンド社)、『古本めぐりはやめられない』(東京書籍)等の
著書がある。
 福永武彦『夢百首雑百首』(1977年・中央公論社)を見付けた
思い出が興味深い(「大いなる幻影」)。阪急電車の某駅で下車する。
駅の近くの小さな古本屋で、この本を発見する。1500円ぐらいという
予測は外れ、500円の価格がついている。「500円を渡すと、店主の
手からむしり取るようにして店の外へ転げ出た」と、そのときの喜びを
表現する。古本に無関心な読者にとっては、「たった1000円のちがい」が
「喜び」につながるとは理解し難いことなのであろう。この後、著者は
近くの民芸調の雰囲気の喫茶店に入り、ページを開こうと思った……。
この後の部分については「読書の愉しみ」を奪うことになるので、
ここではカット。
 古本にまつわる様々な話題の中には、極めて珍しい話題もある。
例えば、53ページに写真が掲載されている「消毒済証」という切手
または印紙大の紙片。そこには「愛媛県 消毒済証」と印刷され
「24・5・20」というスタンプが捺印されている。ちなみに「24」というのは
「昭和24年」を意味する。古本に貼られた「消毒済証」という紙片。
なぜ、このようなモノがあったのか。著者は、当時蔓延していた結核と
結びつける。結核病棟で読まれていた本が、県の要請によって消毒
されたのではないかと推理する(「痕跡が語る古本の履歴」)。
 永井荷風や夏目漱石の初版本。そんなジャンルの古本と本書の
著者は殆ど無縁である。弘田三枝子『ミコのカロリーブック』は
古本屋で一度見ただけ。昭和40年代の半ば頃出たタレントの
ダイエット本のはしりだ。ベストセラーにはなったが、今日では
全く忘れ去られた本である。
 著者にとって幻の本だ。同じダイエット本としてキャッシー中島・
林寛子『月見草オイルであなたもやせる』(書名は少しちがうかも
知れない)も著者にとって気になる本(「そいなみ本」とは何か)。

(2001年・ちくま文庫・780円+税)

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