本の紹介(No.4)

江戸読本」(雑誌)

  この雑誌は昭和13年6月に創刊号が発行されている。創刊号の
巻頭言では三田村鳶魚が挨拶をしている。私の手元には合本として
創刊号から第12号までしか蔵書がない。内容は全て、江戸時代の
生活・社会に関してのもので非常に広範囲にわたって書かれている。
  第2号から「江戸語彙」が、第7号から「江戸字引」「読書便覧」が
夫々連載されている。記事は興味深いものが多いが、記事以外の
広告のページに「三田村鳶魚著作目録」が第6号に載っている。
つい先ごろ、内容がほとんど同一のものとして中公文庫から発売に
なっている。広告のページでもう一つ、映画の広告が非常に多い
ということ。創刊号から毎号掲載されている。当時の映画製作の
スタッフ及び俳優の顔ぶれがうかがえる。但し、東宝映画しか掲載
されていないのは何か理由があるのだろうか。また、昭和13年頃は
まだ、太平洋戦争が始まる3年以上前であったためか、相当柔らかい
内容のものが広告に現れている。
例えば、第2巻第5号の「春雷」の広告の中での紹介文は、

   海のない港の波濤の中で茨の道を辿る二人の女性を中心に
   起った愛の葛藤は波瀾重疊相寄る魂を描いて自ら情感を
   呼び起す名篇!

となっている。太平洋戦争直前には国防一色となり、このような内容の
広告は恐らく認められなかったことであろう。
  ところで、この雑誌の記事の中心となるものは、もちろん三田村鳶魚
であろう。鳶魚は江戸時代の小説、随筆、記録、日記等に現れてくる
社会事象についてほとんど熟知している研究家であり、学者でもある。
その外に江戸時代についての研究家としては、(鈴木)南稜、共古、若樹、
(島田)筑波、二葉、扇松、静方、秋方などがいる。
(M.D)


(月刊雑誌 「江戸読本」 昭和13年・江戸読本社)

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