本の紹介(No.6)

航空用語改訂増補」(帝國飛行協会)

  この本は、今から64年前の昭和11年に発行された航空用語辞典
である。この辞典ができる12年前の大正14年に”航空評議会”により
選定刊行されたことが”序”に明記されている。大正12年といえば、
ライト兄弟の飛行機が飛んでからまだ20年しか経っておらず、航空
輸送が始まったのが大正9年であることから、日本で”航空用語辞典”が
出来たのは極めて早い段階であったといえる。
  この辞典では、日本語(漢字、仮名)のほかにローマ字、英・米語、
フランス語、ドイツ語による記述がなされている。また、紹介されている
用語には、もちろん現在使用されていない用語も多く含まれている。
ちなみに「4.飛行機」には110もの用語が紹介されている。用語の中で
興味が湧くのが、「12.気象」のなかの”風”についてであろう。
  航空用語辞典とは関係ないが、”風”については既に、「風位考資料」
(柳田國男著、明世堂書店、昭和10年)のなかで日本国内各地で使用している
風の呼び名を調査・収集し、風の方向、風が吹く時期、語源、比較、言伝え
など歴史的、民俗学的で多方面にわたる内容の報告をしている。
また、時代がずっと後になるが海外では「風の風物誌」
(ライアル・ワトソン著、
木幡和枝訳、河出書房新社版、1985年)においては、風と地球、風と時間、
風と生命、風と身体、風と精神、などより情緒的な面から風をとらえている。
  航空用語辞典で使用している”風”は、あくまで”気象用語”として紹介
している。ここで”陸上風力階級”に6段階、”海上風力階級”に12段階の
風の種類をあげている。陸上風力について紹介しよう。
             航空用語辞典            現在の気象庁
                     相当風速       風力階級の風力
    一 風あるを感ず     1.5〜2.4米/秒        2
    二 樹の葉が動く     3.5〜4.9  〃         3
    三 樹の枝が動く     9.0〜9.9  〃         5
    四 樹の大枝が動く   10.0〜14.9 〃         6〜7
    五 樹の幹が動く     15.0〜28.9 〃         7〜10
    六 樹が折れ倒れ家も  29.0米/秒以上        11〜12
      倒れる事もある
  
以上のように、陸上風力の分類においては非常に大まかに決めて
いるが、海上風力においては現在の階級とあまり変わらない様である。
この用語辞典にある外国語については、残念ながら検証していない。
ただ、感心させられたのは、当時、外国から輸入されてきた航空用語が
日本語として存在していなかったため、単語を作ることに苦労したと想像
される。江戸時代末期から明治に掛けて外国語の訳として新しい日本語を
考えたのと同じであろう。(M.D)


帝國飛行協会北尾亀男・昭和11年・帝國飛行協会)

参考資料  風位考資料
(柳田國男著、明世堂書店、昭和10年)
        風の風物誌(ライアル・ワトソン著、 木幡和枝訳、河出書房新社版、1985年)

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