本の紹介(No.15)

新川柳大観」(川上三太郎編)

  この本は、明治・大正・昭和にかけて読まれた川柳を集めたものである。
出版されたのは昭和4年4月であるが、昭和の分はページ数で全体の40%を
占めている。読まれた句に年月が明記されていないため、年代は明確でない。
川柳の専門雑誌の場合は、読まれた時期がある程度判ることが多いため、
当時の世相が浮かび上がってくるのだが。最近では、新聞社、生命保険会社、
出版社などが主催して一般募集している。
この本がどのようにして句を集めた
のかは不明である。明治・大正時代に発行された川柳関係の雑誌類は、
地方都市で発行されたものを含めると数十冊に及ぶと見られる。
  まず、この本では、大きく6つのテーマに、中分類として固有のテーマを
付している。小分類では各時代に即したテーマを個別に設定している。
 1) 人間  女               3) 生物  鳥類
        男                       獣類
        愛する人                   魚介
        家庭                     草木
        小人大人           4) 地上   新道旧道
        学びの窓                  満潮干潮
        身体と声                   乗物色々
        病気と死                   地図の色
 2) 生活  商売往来@〜C      5) 天象   一日
        主者従者@、A              晴雨
        衣食住@〜C        6) 四季   春
        喜怒哀楽                  夏
        貧しき者                   秋
        趣味の人@〜C              冬
 
  また、”序文に代えて”として”川柳寸劇四つ”を紹介している。すなわち
春夏秋冬各一つずつである。春は、貫一とお宮、夏は、粂の仙人と女、秋は、
孫悟空と猪八戒、冬は、武男と浪子、の夫々の寸劇にしている。
  それでは、明治時代の句について各テーマから一つずつ紹介しよう。
  なお、現在差別用語として指摘されている単語、あるいは不適切と
思われる単語が使用されている句については、ここでは紹介をしない
事とした。
     男には同情をする人もなし(五葉)
     天知る地知る近所知る親知らず(而笑子)
     理想から三歩譲ったホームなり(只英)
     あの親にあの子と話し笑はれる(ホマチ)
     校長の演説例の如くなり(六里坊)
     院長はたゞ頷いて脈を取り(福助)
     坐るのと立つので議員二千圓(礫川生)
     成金の第二の欲は衆議院(半読)
  次に、大正時代の句を紹介しよう。
     世の中を知らぬ息子が二階に居
     高島田重たいように首を上げ(幾子)
     嘘々とみな嘘にする仲のよさ(秀蝶)
     重役の倅いきなり課長級(井窓)
  最後に、昭和時代(昭和4年始めまでの3年間)の句を紹介しよう。
     高島田その日娘は背が高い(女神丸)
     耳隠し人に知れない年をとり(懐窓)
     もう駄目と見て病人の言ふ通り(○丸)
     弱点を握り新薬値が高し(緑朗)
     解剖は薬とメスと二度殺し(茗八)
  以上、多くある中から独断と偏見で選んでみた。時代背景が70年前に
遡る為、現代感覚で眺めると理解できないものが相当ある。明治以降に
ついても理解できなくなる部分が出てくるのであるから、古川柳ともなれば
もっと多くの理解できない部分があるのはやむを得ないことであろう。特に
川柳は庶民の生活そのものを描いたものがほとんどだからである。
(M.D)

(川上三太郎編・昭和4年・草文社)

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