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本の紹介(No.22)
「日本経済史研究」(幸田成友著)
本書は、昭和3年(1929年)3月に大岡山書店から発行されたもの
である。ここに発表されている論文は、多くが三田学会雑誌及び商学
研究によるものである。目次によると全部で17項目あげられており、
発表された雑誌の関係から、全て商業関係の論文である。
目次は次の通りである。
米切手
天保14年の御用金
札差 武士と町人
札差雑考 天保人別改令
質屋 非人寄場
富札 弾左衛門の生計
髪結床
江戸の名主
天保改革の一節 徳川時代の大阪市制
株仲間の解放 日本経済史上の大阪
御買米及び御用金
以上のように、江戸時代における商業上の重要な項目について、
詳細に記述している。
まず”米切手”であるが、これは現在で云えば”為替手形”のような
ものであろう。この制度は、安永3年に制定されたが、空米切手が
横行し、市場を撹乱させ米価騰落の趨勢を助長する、とのことから、
田沼意次失脚後、数ヶ月して廃止された。
”札差”(札差雑考を含む)は、時代劇にもたびたび登場している
職業である。今流の金融業である。旗本・御家人は言うに及ばず、
大名も札差から多くの借金をしていたため、大名を牛耳るほど絶大な
権力を握ってしまった。札差が貸すときの利息は、公定では、享保
以前は年2割であったらしいが、徳川吉宗の時代に1割5分に下げ
させられたようだ。札差仲間は、仕事の性格から江戸では浅草蔵前に
集中していた。
この本には、地図(慶応3年12月)及び札差仲間人名簿(享保9年7月
21日)が添付されている。
”質屋”は、この文字は江戸時代に用いられたが、営業としては
足利時代から存在した。質屋は仲間組合で組織されており、幕府から
鑑札札が交付された。現在と同じように質物に対して価格が付けられ、
当然利息を取られた。江戸における質屋仲間の総人数は享保8年に
2,731軒あったといわれる。京都は628軒であった。最後の所で、”質屋の
研究に関する著書及び論文”が次のように参考として紹介されている。
書名 著者名 出版年
質屋の研究 小笠原繁夫
大正2年再版
質屋に関する調査 堀越鐡蔵 大正2年刊
質屋考 内務省警保局 大正8年謄写版
質屋附質商 小宮山綏介
明治23年刊
(江戸会誌第2冊の2)
質屋の話
宮崎道三郎 明治33年刊
(東京学士会院雑誌22編の1)
奈良時代の経師等の生活 相田次郎
大正12年刊
(歴史地理第41巻ノ2,3)
質 柴譲太郎
明治45年刊
(経済大辞典 1578頁以下)
鎌倉時代の質屋に関する規定 三浦周行 大正8年刊
(法制史之研究909頁以下)
正寶録 写本 (帝国図書館蔵本)
天保度御改正諸自留 写本 (同 上)
諸色調類集 質物利下之部 写本 (同 上)
諸問屋再興調 八品商売人之部 写本 (同 上)
三商上報
写本 (同 上)
富札は、富籤(千人会・刺牌戯などと書く)、富突(とみつき)・突富・
万人講などともいう。江戸幕府は、寺社から修理のための拝借金申出に
対し、財政困難で修理費が賄えないことから富札などで射幸心を煽り
お金を集めた。本書では、仁和寺宮の富仕法を紹介している。札数は
17,000枚、鶴印、亀印、松印、竹印が各4,250枚づつで、1〜4,250番迄
番号を付け、札料は1枚金1朱、全部で1,062両2分となる。當は本當が
1〜100まである。つまり100回突くことになる。第1番目に突いたのが
1の富で50両、2の富が30両、3の富が20両、10番目、20番目、30番目、
60番目、70番目が各10両づつ、50番目が50両、80番目、90番目が
各20両づつ、100番目が突留で200両となる。上記に100以下で該当
しない番号は間々(あいあい)といって1両づつ貰える。また、上記の
10両以上の當くじは、前後賞が、現在の宝くじと同様、組違い、すなわち
印違合番の制度がある。このようにして、褒美金額(當分)は936両3分に
なり、諸雑費が95両で、総売上高との差額は30両3分であるが、奉納金
などがあるため、106両3朱7分5厘が寺社の収益金となる。
髪結は、江戸時代の男子は、年齢、職業、身分により髪の結い方が
異なっていたこともあり、男子の髪を結うのは男の職人に限られていた。
女子の場合は、”女髪結”として別あつかいであった。髪結を営業として
行うには、鑑札札の交付を必要とした。髪結床は、”出床”、”内床”の
2種類あり、町境・木戸際・橋台・川岸地その他空地に床を構えている
ものを”出床”といい、町内に家を借り店を構えているのを”内床”といった。
その他に、髪結が鬢盥(びんだらい)(大阪では台箱)という髪結道具を
入れた箱を下げて相手先に出かけて髪結をしたのを”丁場”といった。
以上の他にも、興味深い項目はあるが、ここでは取上げない事に
したい。
本書では、古文書の事例を多く取入れており、事例研究をするにも
最適な教科書になるものといえよう。出版されてから既に70年以上経過
しているが、内容はしっかりしていて現在でも十分対応できるといえよう。
(池田)
(幸田成友著・昭和3年・大岡山書店)