本の紹介(No.11)

「たとえばの楽しみ」(出久根達郎著)

  著者は古書店主にして作家。本書は、著者の古本ドップリの生活から
生まれた何冊目かのエッセー集。1996年、講談社から単行本で出版され、
今版文庫本となった。きわめて多種多様な”情報”が詰まったエッセー集
である。小さな紙片の栞にメモ(項目とページ)をとりながら、読み進めて
行くと、たちまちちょっとした狭いスペースはメモでいっぱい。栞の裏も使い、
こちらも、あっという間にメモだらけになった。
○戦時下、鎌倉在住の文士が経営した「鎌倉文庫」。文庫の整理を任されて
  いた中村苑子によると、川端康成、高見順、久米正雄、中山義秀などの
  文士たちは、売り上げ計算する際のソロバンが上手だった(27ページ)。
○夏目漱石が赤ん坊の頃、新撰組の沖田総司と出会っている(32ページ)。
○イギリスの首相を務めたチャーチルはマンガも好きだった(37ページ)。
○映画監督小津安二郎は本が好き。映画の中に「本を読む姿」や「本棚」の
  シーンを、さりげなくとり入れ(65ページ)。
○大正時代に、東海道線展望車には書棚があり、谷崎潤一郎、菊池寛、
  末弘厳太郎などの著書が並んでいた(80ページ)。日本の医学、動植物学
  などに多大の影響を与えたシーボルトは、アルフォンス・ドーデ−
  (『風車小屋だより』などの作者)と交流があった。(84・85ページ)。
  最後に近い277ページ以下にエドワード・ガントレットのことが出てくる。
ガントレットは山田耕筰に音楽を教えた人といわれている。耕筰の長姉恒
(つね)
の夫だった。岡山の旧制第六高等学校(現岡山大学)の教師を務めた。
ガントレットは、日本のエスペラント史には必ず出てくる人物。山田耕筰も
旧制中学時代に、ガントレットからエスペラントを習っていることを思い出した。
ただし、このことは本書には言及されていない。(O.R)

(2000年・講談社文庫・600円+消費税)

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